2013年05月11日

積もり積もれば

 連休はいかがでしたか? 前半は冬のような日があったり残念な天気でしたが、後半はこの時期らしい陽気に恵まれましたね。

 連休が明けると花粉症の季節は終わりです。スギに続いてヒノキ花粉飛散も終了しました。シーズンが終了して今シーズンの統計がまとまってきました。それによると今年は例年になく飛散量が多く、新たに発症する花粉症患者さんが多かったそうです。去年の飛散量が少なかったこと、昨夏暑かったことなどが原因とみられています。

 本当に酷いシーズンでした。近隣の眼科、耳鼻科では100人以上も患者さんが来て、大混雑だったようです。普段、静かな我がクリニックも珍しく来院される方が多かったです。ピークはちょうど3月9日か10日くらいだったでしょうか。大量の花粉が舞い上がり、山火事と間違って通報されたというようなニュースもありました。一体どれだけこの目黒区に降り積もったんでしょう。雪のように一面黄色くなりそうです。

 実際に地層の中には花粉が含まれていて、その当時の植物の様子が分かるそうです。さらにそれによって気候など環境も推測されるため、化石の発掘などの際には参考にされるそうです。少年時代はご多分に漏れず、化石や恐竜が大好きでした。秩父セメント付近の石灰岩は遥か昔は珊瑚礁で、暖かい海に様々な海洋生物が泳いでいた...なんて想像してとうっとりしていました。

 ただ、大陸と比べ、日本は比較的新しい地層が多く、化石が発見されにくいのを残念に思っていました。比較的新しい時代に限っても、日本には考古学的に参考になる遺物は少ない。氷河期以降を考えても大きな文明からはいずれも遠かったし、高温多湿で遺物も残りにくい。

 しかしあったんですよ。誇れる遺物が。最近NHKで紹介されていた福井県の水月湖です。私も全く知らない場所でした。湖とは堆積物が溜って遠からず湿地になり、やがて枯れてしまう運命です。しかしここは断層の関係で年々湖自体が沈下しており、いつまでも干上がることが無いそうです。また水深が34mと深く、直接つながる河川も無いため、通常起こる対流など水が撹拌されるような動きが少ない本当に安定した静かな環境なんだとか。

 こうなると湖の下の方は微生物に酸素を使い切られて無酸素になり、生物が少なくなってしまうそうです。生物が少ないと、その死骸や排泄物など有機物の沈殿も少ない。このような環境では、時には数万年も湖底に堆積物が安定して降り積もり、きれいな地層を形成しやすいそうです。

 水月湖の湖底には15万年にわたる地層の堆積があるそうです。春には珪藻が堆積した白い層、秋には粘度が堆積した黒い層ができる。その白と黒の縞模様が年輪のように延々と15万年分あるということです。数えた人も凄いですね。一年分の白と黒の層を「年稿」というそうです。

 この年稿に含まれる花粉の種類や量を調べれば、その年の気温や植生が分かる。つまり、15万年分の環境が細かく分かる。分析によって海面の高さや地震、噴火といったイベントまで分かるそうです。これは実は凄いことで、これまで他の方法で年代が特定されていたイベントを修正しなければならなくなることもあるそうです。

 世界の文明の栄枯盛衰から、古代動植物のゆくえ、果ては氷河期の長さから人類の地球移動の旅のあらましまで、ここの調査が及ぼす影響は計り知れません。まさに地球規模の基準時計です。世界中見渡してみても、こんな時計はここだけ。

 私たちの人生、せいぜい頑張っても100年。ここでは年稿100層、数センチにも満たないのではないでしょうか。きっとここでは私たち人類が滅びても、静かに年稿が堆積してゆくでしょう。いつの日か、誰かがそれに気付いた時、私たちの歴史はどう見えるでしょう。環境の破壊を示す、いびつで汚い年稿が遺るのでしょうか。スギ花粉だけ妙に多かったり、放射性物質が多かったり、きっと解釈に困るでしょうね...。

 この連休に波照間島に行ってきました。日本最南端の有人島です。お天気は今一つでしたが、有名な泡波のロックは最高でした。最近では某国の脅威が高まる国境付近ですね。いつまでも平和でありたいものです。

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2013年04月03日

五周年

 今年も4月3日を迎え、開業5周年となりました。もう五年も経ったのかと、己の進歩の無さに驚くばかりです。三年目くらいまでは平坦な道のりではなかったので、良くも悪くも印象深いものでした。最近も決して良い事ばかりではありませんが、変化が無いかもしれません。

 限られたスペースと人材の診療所では、改善点があれば小回りよく対処できます(経済的に出来ない事は多いですが)。大きな病院だとカルテの置き場所一つ変えるのも大変です。会議とか稟議とか根回しだとか面倒臭い。

 ただ診療所での最大の弱点というのに、以前から気付いていました。それはたった一人の医師(経営者)、即ち私です。大きな病院のように、どこかから若い才能が次々やってきて、システムも環境も新陳代謝していくことが出来ない。しょうがないので、だいぶ衰えてきたこのロートルに鞭打って成長させていくしかありません。

 日常診察していると、自分の診療の結果を確かめるのはなかなか難しい。ここでは隣の誰かや指導してくれる先輩に意見を求める事も出来ません。また、多くの患者さんは、そう何度も受診しません。

 良くなってくれて来ないのか、それとも良くならないので他所に行ったのか。私は良くなっていても、そうでなくても、自分の診療の結果を確かめたい。もちろん治っていれば何よりです。しかしそうでなくても、どこに間違いがあったのか気付く機会を与えられる。間違いを修正して経過良好なら問題無いし、何よりも自分が成長できる。もし自分の力の及ばないものであっても、しかるべき病院を紹介し、そこからの返事によって勉強する事が出来る。

 若い頃と違って成長する機会はますます無い。先輩や同僚の診療を見て学ぶ事や、自分の失敗を評価してもらう事はとても大事な事だったとしみじみ思います。手術を切磋琢磨し、手技を試行錯誤し、新しい知識に触れていく。どうしても一人で小さな診療所に籠っていると、そんな成長の機会から遠ざかってしまう。それはとても怖いことです。

 そろそろ、この長文の結末にお気づきかと思います。そうです。さらなる成長のため、今週末4月6日土曜日は学会に参加させて頂きたいと思います。誠に勝手ながら休診させて下さい...。

 これからも成長していきたいと思う気持ちに嘘はありません。最近、研修医の頃にやっていた、塗抹検鏡を再び始めました。顕微鏡で染色したメヤニを見るだけです。感染症の起炎菌を同定したりは出来ませんが、アレルギーなのか感染なのかくらいは分かります。感染でも、周囲に感染しやすいウィルスなのか、薬が良く効いてすぐ治る細菌なのかも分かります。

 久しぶりでしたが、ヘルペス性結膜炎やクラミジアなどレアな感染症を見つける事が出来ました。診断できれば逆にその疾患に特徴的な所見を見つける事が出来たりして、さらに診療の精度をあげる事が出来ます。

 医者の辞め頃は手が利かなくなったら、と考えていました。患者さんの害になるような時までやるべきではありません。しかし最近は成長できなくなったら辞めようと思っています。さらに五年、十年で果たして成長していけるのか、これからもどうぞ暖かく見守っていて下さい。

 今年の桜は五年前よりキレイに咲いているでしょうか。

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2013年03月05日

西から東へ

 春一番が吹き、いよいよ冬が終わろうとしているようです。信号が揺さぶられ、自転車が並んで倒れるような強風でした。春の嵐といってもいいレベルです。

 少し空が霞んだように見えるのは、空気が掻き回されるからでしょう。雲が出るのも風が吹くのも徐々に暖かくなっている証拠かもしれません。もう宇宙まで透けているような冬空ではありません。

 この霞み、中国では凄い事になっているようです。大気汚染物質によって数十メートル先も見えない状態のようです。しかもこれが風向きによっては九州や西日本にも飛んできているようです。

 折り悪く、花粉症の季節がやってきました。花粉は大気汚染物質に吸着して空を舞い、分解してより小さい抗原となって、通常よりもアレルギー反応を起こしやすくするそうです。ただでさえ去年の飛散が少なかった事や、冬寒くて夏暑かった影響で、今年は酷いと予想されています(ただし1月からの累積最高気温の低い今年は飛びはじめが遅いようです)。

 以前では想像もできなかった外国の気象状況や経済活動のことまで考えなくてはいけない時代なんですね。

 私はフラフラと貧乏旅行に行くのが好きなんですが、カンボジアに行っても、マレーシアに行っても、タイに行っても、ベトナムに行っても、中国人が増えたなあと思います。現地で商売している人も旅行者も。

 かつて我々日本人も海外で良くも悪くも目立っていた時期がありました。しかし1億人が外に出て行くのと、13億人が外に出て行くのではスケールが違う。行儀の悪さも騒がしさも、汚染物質も13倍目立ってしまうのかもしれません。

 両国間には多くの問題があり、緊張した関係の昨今です。世界中見渡してみれば、隣国と仲のいい国ばかりではありません。近い分だけケンカも多い。でも文化的交流、交易も盛んだったはずです。たまたま今は悪い。毎週のように餃子やらラーメンを食べ、毎日のように漢字を使いながら、そんなことをボンヤリ考える今日この頃です。

いよいよ駒沢公園では梅が満開です。

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メジロが来ているようです。

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殺風景な冬はカメラを持って出かけようという気になりませんでした。これから楽しみです。

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2013年02月01日

転ばぬ先の

 早いもので今年も1/12終わってしまいました。スケジュールを振り返ってみれば、それなりに予定があったはずです。しかし手の中でつるんと逃げた魚のように、時間も日時もどこかに消えてしまう。決して忙しかった訳ではないんですが、なぜでしょう。

 1年で一番寒い1月末から2月初めは毎年ヒマです。内科などは風邪で大混雑ですが、眼科は花粉が飛び始めるまで寂しいものです。ヒマなら自転車に乗って何処にでも出かけるところです。しかし先月半ばの雪は丸々二週間ほども残っていて、乗るには危険でした。実際に転倒して来院された方もいらっしゃいました。

 東京は大雪が降ると交通機関が麻痺してしまいますね。一年に数日降るかという雪のために、特別なインフラを整備するのは難しいでしょう。通勤も通学もうんざりするくらい混乱します。身体や目の不自由な人は特に外出できなくなります。

 最近では特にロコモ(ロコモーティブ症候群)といって、筋肉や骨の衰えで一人で動けなくなるような状態が注目されているようです。ロコモとかメタボとか、最近では変な略語ばかりですね。ロコモコはハワイ料理でしたっけ?ドコモは携帯。整形外科の領域なので専門違いなんですが、眼科の患者さんにも重なる部分があるなと感じています。

 転倒などで足腰を痛めると、思うように動けなくなったり、寝たきりになったりすることは高齢者では珍しくありません。自立出来なくなると、生活に及ぼす影響は甚大です。昨今の介護事情を考えると、かなり厳しいものがありますね。最近では骨折しても早期にリハビリさせて社会復帰させます。しかし以前は長期入院の末、寝たきりのまま療養型病院に転院なんてことも珍しくありませんでした。

 かつて眼科病棟には糖尿病網膜症の方が沢山いらっしゃいました。いわゆる眼底出血です。手術をしても思うように視力が回復せず、廊下の灯りがボンヤリ見える程度というくらいの方も珍しくなかったです。合併症のため手先足先の感覚が鈍い事もあり、また長期間入院して筋力低下していたこともあって、転倒することもありました。

 眼科病棟は徹底して動線に障害物を置かないようにしています。しかし退院して自宅や路上で歩くようになると、そうもいきません。自転車も看板も段差も雪も、行く手に立ちはだかります。転倒の恐怖は一度経験したら忘れられません。だんだん外出が億劫になり、活動性が低下します。そうするとますます出られなくなる悪循環に陥ってしまいます。

 こうして考えると眼科疾患はロコモの遠因であることが分かります。糖尿病網膜症に限らず、緑内障でも網膜剥離でも同じ事でしょう。白内障のように手術で視力を改善出来る場合、積極的に考えてもいいと思います。もちろん安易な手術は、合併症の悪化を招いたりするリスクもあるので慎むべきです。

 いつまでも動ける身体を維持する事はつくづく大事ですね。ちょっとした運動習慣でも、やるとやらないでは後々大きな差になると思います。そのためにはちゃんと見えている事は重大な条件だと思います。

 駒沢公園は沢山の人が歩いたり、走ったり、自転車に乗ったりしています。皆さん素晴らしいと思います。ここの梅は毎年早めに咲くのですが、今年は遅れているようですね。桜も見事な公園ですが、いち早く春を知らせてくれる梅もまたいいものです。

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 近くにボケも咲いているんですが、その枝にカマキリの卵を発見しました。わらわらと出てくる様子が見られればいいですが。

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posted by kawagucci at 17:46| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月03日

謹賀新年

明けましておめでとうございます。旧年中はお世話になりました。本年も宜しくお願い致します。

 思えば5年前の年末でした。当時、眼科医院を開業する場所を探していた私に、不動産屋さんから連絡があったのは。現在の都立大川口眼科となる場所を初めて見に行きました。それから年末年始の休みの間、ずっとぐだぐだと悩み続け、松の内には決断していたと思います。

 それから4月の開業までの準備期間は大変でした。なにしろ社会常識も経済感覚もゼロでしたから(今でも怪しいですが)、金融機関や保健所、内装業者さんから医師会まで、きっと呆れた事でしょう。よくも開業できたと思います。

 早いものです。全く何も無いところから今日まで、あっという間でした。内装工事が始まって配管丸出しになったテナントを見たあと、八の坊でラーメンを食べました。目黒通りの向こうにテナントを眺め、底なしの不安に襲われた事を今でも憶えてきます。

 少ないながらも患者さんが行き交い、ものが増え、だんだん眼科らしくなってきたと思います。ひとえに支持して頂いた皆さんのお陰と感謝しております。唯一計算違いだったのは、春になるとイチョウが茂って看板が見えない事くらいでしょうか。

 付近では新しくビルやマンションが建ち、少しずつ街並が変わっていくのを感じます。私たちも大分、風景に溶けこんだのではないかと思います。ここらで一区切り、今一度、初心に戻って新しく作り直す気概で頑張ろうと思います。

 年末年始は親戚まわりで終わりそうです。お年玉をせしめてご機嫌の娘はともかく、渋滞の中の移動でヘトヘトになりました。

 遠く離れて暮らす親族が集まれば、話題はお互いの近況、特に健康になることが多いですね。私はこの機会に、近しい親族に遺伝疾患を聞いて家系図に整理しておくことをお勧めします。中には秘密にしている方もいらっしゃるので、根掘り葉掘りという訳にはいかないでしょう。

 もっと上の世代では「なんだか目の病気だったらしい」「鳥目だった」くらいしか情報が無いことも珍しくありません。しかし、調べてみようかなと受診動機につながることも大いにあります。緑内障をはじめ遺伝病では早期発見に繋がるもので、特に大事だと思います。後から聞いたら実は...というケースを頻繁に経験します。

 様々な事情で情報が得られず、あまり向いていない職業を選んでしまった不幸を経験した事があります。親を病院に連れてきて、自分の病気を見つけられてしまった方もいます。正月早々なんですが、いい機会なので話題にしてみて下さい。

 家内の実家で子供たちが義父母孝行?している間にサイクリングに行ってきました。土浦から筑波山の向こうまで往復89km、天気が良くて爽快でした。

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posted by kawagucci at 16:30| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月11日

上を向いて気を付けよう

 もう師走になってしまいました。なんと早いことでしょう。医師も走る、というほど私は忙しくありません。11月で眼科検診も終了し、ちょっとほっとしている今日この頃です。選挙カーや厚着の人々が目黒通りを通るのを見ていると、訳も無く気忙しい気分になります。

 外を見ていて気付いたのは、窓が汚れてきたことです。ベランダ側はともかく、通り沿いは外から窓ふきが出来ないので汚れっぱなしです。清掃を頼もうと思ったのですが、年内はもう無理だそうです。みんな大掃除をする時期なんですね。

 大掃除の時期になると、毎年のように薬品や研磨剤が目に入ったという方が来院します。歯磨き粉を研磨剤代わりに金属を磨く方が少なからずいることを知りました。あれには研磨剤が入っているんですね。銀のアクセサリーの黒錆を取る効果はよく知られています(削りすぎてしまうらしいですが)。

 スクラブなどを含んだものが目に入ると目の表面、主に角膜の表面を削ってしまって大変な事になります。ここは傷がつくと非常に痛いです。瞼と角膜の間に入った状態で擦ると、まさにヤスリがけ状態ですね。

 目に入るシチュエーションで多いのは高いところの作業をしている時です。電灯や換気扇、棚の高いところなどでしょうか。埃やカスが目に落下してきやすい姿勢なのは容易に想像出来るでしょう。また上を見ている時は、下を見ている時よりも目が大きく開いているため、より入りやすいです。そういった作業はメガネをかけてやる方がいいです。掃除の時は手袋とメガネです。

 何か入ったらゴシゴシ擦らず、まず涙で流れるか様子をみて下さい。痛みが強かったり、見難くなるようでしたら、ご相談下さい。

 写真を撮った時はまだ黄色い葉が奇麗でしたが、ここ数日の寒さですっかり落ちてしまいました。もう冬本番のようですね。今年は寒い冬になりそうです。

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posted by kawagucci at 17:16| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年11月06日

到底ガッテンしかねる。

 今日は前線通過中で雨のため、肌寒いです。また移動性高気圧による秋らしい晴れの日もあるでしょう。一雨ごとに気温が下がり、冬に近づいているのを感じます。クリニックも昨日初めて暖房を入れました。

 クルマの運転される方なら、雨の日の運転がいかに危険かよくご存知のはずです。視界は悪く、ブレーキも効きにくい。ワイパーをいかに激しく動かそうと、水滴が邪魔して見にくい。以前は水滴を弾く撥水コーティングなど一生懸命やっていましたが、長持ちしないのと手間がかかるので止めてしまいました。

 サイドミラーには撥水では無く、親水コートというのを塗っていました。これは文字通り、水を弾くのでは無く、引き寄せるコーティングです。ワイパーや走行中の風で水滴が吹き飛ぶフロントウィンドウなどは、撥水コートされていれば水玉は勝手にコロコロと飛んでいきます。しかし風裏になるサイドミラーはそうはいきません。

 そのため、あえて水を水滴にしないよう、ベターッと均一に濡れている状態に保つようにするのが親水コートです。多少、塗りムラがあるのと振動のせいで、クリアというわけではありません。しかし水滴で乱反射しないので、隣の車線のクルマのライトなどはハッキリ確認できました。

 こんなことを思い出したのは、つい2週間程前に放送されたNHKの人気番組、「ためしてガッテン」でムチンが取り上げられたためです。ムチンは親水性のネバネバした物質で、このサイドミラーの親水コートのように涙を目の表面に均一に保持します。これが足りないと涙はすぐ弾かれ、不均一に分布して目の表面は水滴で覆われたミラーのようによく見えなくなってしまいます。

 涙は下瞼の水溜りから上瞼によって持ち上げられるように、目の表面に塗り付けられます。涙は目の表面のムチンと最表層の油膜によって均一な厚さを保ち、クリアな視界を確保します。通常であれば、これは約10秒ほどです。試しに瞬きせずに10秒くらい、上目遣いに字を見つめていて下さい。最後は開けていられない感じで、酷ければ霞んでくると思います。

 ムチンが足りなければ10秒どころではありません。この辺は番組内で詳しく取り上げられていたので割愛します。犬の唾液やオクラも登場して、なかなか楽しい番組でした。今度、ウチの老犬にミラーを舐めてもらおうかなと思いましたが、糸を引きそうで思いとどまりました。

 番組放映後、また再放送放映後の反響は大きなものでした。ウチのようなクリニックにもこれだけ問い合わせがあるのだから、大きなところは大変だったのではないでしょうか。少し気になるのは、その内容の多くが「視力の良くなる目薬を下さい」というものだったことです。

 これは多分に番組のセンセーショナルなタイトルからくる誤解だと思われます。タイトルには「5日でメガネいらずに!? 新・視力回復法の正体」とあります。メガネとは近視や遠視など屈折異常を矯正するものです。屈折異常があればドライアイをどんなに治そうと見えません。確かにドライアイのせいで必要以上に強い矯正、特に乱視などが加入されている方も散見されますが、基本的に別に対応すべきものです。

 ムチンの分泌低下によって涙が蒸発するタイプのドライアイの存在。それを世に問うた点は評価できるのだけに残念です。私はテレビはNHKくらいしか見ません。良質のドキュメンタリーや自然科学系の番組は高く評価しています。しかしあのセンセーショナルなタイトルで、多くの屈折異常や老眼の方、他の眼疾患の方をぬか喜びさせるような構成は感心出来ません。深夜放送のショッピングチャンネルじゃあるまいし。

 あ、でもこれまでの番組はいいですよ。アサリの味噌汁は今でも美味しく頂いてるし、鳥の胸肉もジューシーに食べられるようになったし。

 京都で学会があった際も、この番組は話題になっていたそうです。出演していたT教授も内心、困ってらしたんじゃないかなあ...。京都嵐山の竹林を歩いてきました。

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posted by kawagucci at 11:49| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年10月09日

ノーベル賞受賞

 急に寒くなりましたね。酷暑だったのが嘘のようです。うっかり半袖で出て凍えそうでした。それよりも鳥肌ものだったのは、山中教授のノーベル賞受賞のニュースです。

 もう皆さんよくご存知だと思いますが、iPS細胞の研究が医学生理学賞を受賞しました。胎児の細胞を使わず、安全で倫理的にも問題無いこの細胞は、きっと様々な病気を治したり、その研究を助けるでしょう。本当に素晴らしい。

 整形外科医でもある博士は、脊髄損傷の治療を目標としたと聞きます。誰もが無理だと考える疾患です。常人なら流されたり諦めたりするところでしょう。それを真摯に続け、成果を挙げたというのはまさに快挙です。尋常ならざる情熱の賜物だと思います。坂の上の雲、というドラマのタイトルを思い出しました。研究の軌跡はとても美しい。

 成果が期待されるのは脊損だけではありません。眼科領域では報道でも名前の挙がった黄斑変性症があります。現在最もiPS細胞の臨床的応用に近いといっていいかもしれません。欧米では失明原因のトップ、日本でも近年上位である病気で、現在では進行を抑えることは出来ても治すことは出来ません。

 この病気では網膜の裏にある細胞がダメになってしまうのですが、これをiPS細胞で作成し患者さんに移植しようという研究が進んでいます。山中先生同様、医師(眼科医)である神戸理研の高橋政代先生のお仕事です。ちょうど講演会があったので聞いてきました。

 iPS細胞で目的の細胞を作る時に、不純物というか目的以外の細胞が混じってきてしまいます。それをそのまま使うと癌細胞などになってしまうおそれがあります。なので純化するのですが、これが中々難しそうです。心筋梗塞の治療のため、やはりiPS細胞から心筋細胞を作る研究があります。ここでは心筋細胞だけが使う栄養素のみ使用して、他の細胞から分離したと聞いていました。目の場合はそういう訳にはいきません。

 実は目の場合、色素上皮細胞というのですが、色素、つまり色が付いています。他の細胞はほぼ無色なので、これを使って分離するのだそうです。具体的な手法まではお話がありませんでした。今度調べてみようと思います。
多分、遠からずシート状に培養した色素上皮細胞を網膜の下に移植する治験が始まるでしょう。

 眼科領域でこうした先進的な治療がいち早く導入される見通しなのは、いくつか理由があるそうです。目は小さいですが比較的アプローチしやすいところにあります。網膜の手術は簡単ではないですが、ある程度技術的に完成しています。少なくとも脊髄と比べれば取りかかりやすいです。

 何といっても目の中は透明で網膜、その下の色素上皮が直接観察することができます。毎日だってできます。これは内蔵では考えられない利点です。内視鏡や画像診断機器は必要ありません。またそれによって、もし万が一問題が起きた時の対処が簡単になります。不純な細胞が混入し癌化しても、レーザーなどを使って切ったりすること無しに対処できます。

 何分、話が聞きかじりで間違ってることもあるかもしれません。それでももう手が届くところに来ていると思うと興奮しました。眼科領域だけでなく、様々な病気に応用されるでしょう。本当に未来に光明を与えた偉大な研究だと思います。5年なのか10年なのか、本当に待ち遠しいです。

 これだけの成果をあげながら尚、謙虚な博士のインタビューにもまた感動しました。医師として直接臨床で患者さんを診ることはもうないのかもしれませんが、研究によって何億人を治すことになります。手術が下手で?研究者になったと聞いた事がありますが、これも運命ですね。同じ医師として心から尊敬します。

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posted by kawagucci at 18:00| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年09月08日

ストレス発散

 9月に入っても厳しい残暑です。連日30度以上の真夏日が続きます。それでも日が短くなり、帰宅する頃には涼しさを感じることも多くなってきました。またザッと降ることもあり、雨の後は少し気温が下がります。夕立というよりはゲリラ豪雨のようで、これも異常気象でしょうか。

 このくらいの雨ではダムの水量を確保するのが難しいらしく、どうやらまた節水しないといけないようです。発電は大丈夫なんでしょうか。また植物にとって温暖化より雨の降り方の変化のほうが深刻で、秋以降は農作物の出来に気を付けなくてはならないようです。飼料も同様でしょうから畜産業も大変でしょう。異常気象、エネルギー問題、食料問題、こんなに身近に危機を感じるようになるとは考えもしませんでした。

 こんなにストレスの多い時代は他にあったでしょうか。バブルの頃は忙しすぎたかもしれません。戦争中はもっと死が身近でした。江戸時代だって時代劇で描かれているよりは閉塞的で、実際は生き難かったという説もあります。中世だって石器時代だって、ストレスが無かったとは考えにくい。どんな集団でも人数が増えれば諍いやトラブルが発生し、ストレスが生じることは避けられないのかもしれません。

 ヘルペスなどがストレスが原因で発症することは有名です。患者さんが来院する度に、そのあたりを尋ねますが、一人一人事情は複雑です。病勢は最新の抗ウィルス薬で抑えられますが、ストレスばかりはどうにもしてあげられません。中高年であれば仕事、介護、人間関係、若い方でも就職や受験、アトピーなどなど。

 このヘルペス属のウィルスは中々やっかいな連中です。眼科では帯状疱疹が有名です。疲れやストレスで免疫力が低下すると、水疱瘡で入り込み身体の中に潜んでいたウィルスが暴れ出す。ビリビリとした痛みが残ったり、大変な時に限って出てくるのでウンザリします。

 他にもサイトメガロウィルスやEBウィルスといった仲間がいて、いずれも虹彩炎をはじめ、多彩な病気の原因となっています。最近では自己免疫が原因と考えられていた虹彩炎など一部の病気が、実はこの手のウィルスの仕業では無いかと考えられています。昔はウィルスが検出出来ませんでしたが、今の検査方法ではウィルスのDNAなどを検出出来るようになったためです。

 ヘルペスウィルスは人間だけのウィルスではありません。一時、鯉ヘルペスで養鯉業が打撃を受けたというニュースもありましたね。魚類、両生類、爬虫類、そして哺乳類にみられる普遍的なウィルスです。元々はサルから人に伝播したらしい。エイズを起こすHIVのようですね。

 もともと人間に病気を起こすウィルスは全部、他の動物から人間に伝播したと考えられます。人間は動物の中では新人もいいところです。その多くは家畜からだったそうで、天然痘は牛、インフルエンザは豚由来だそうです。家畜化し共存するうちに免疫が出来て重症化しなくなっていく。

 牛とともに暮らしていたスペイン人集団は天然痘に免疫があったけれど、牛のいない南北アメリカ大陸の原住民は免疫が無い。だから両者の接触とともにインディオたちはあっという間に滅ぼされてしまったそうです。じつに9割が滅んでしまったという説もあるそうです。こんな風に滅亡した文明、人間集団は有史以来どのくらいあったでしょうか。

 もう地球上、探検し残したところは無いといわれる現代です。しかしまだ人と接触の無い未知の病原体がどこかに潜んでいるかもしれません。誰も免疫を持っていないわけですから、最悪あっというまに人類が9割滅んでしまっても不思議はありません。抗病原性鳥インフルエンザのように、ある程度感染経路も症状も分かっていれば対処できるかもしれませんが...。

 ストレス発散するために、久しぶりに海に行ってきました。遊漁船から見た相模湾の空は青かったけれど、少し雲が高くて秋を感じさせます。夏ももう少し。

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posted by kawagucci at 16:19| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年08月24日

夏休みの宿題

 相変わらず猛暑が続いています。陽射しの下に出ると熱風に燻されてベーコンになりそうです。この熱が激しい上昇気流を産み、上空遥か高く運ばれた水蒸気によって入道雲が湧き、激しいスコールが...と信号待ちの間に考えているとクラクラしてやがて思考停止します。ただただ、私の汗も、室外機の雫も、打ち水の陽炎も、みんな空高く雲になっていく。

 外来に訪れる小学生は皆みごとに日焼けしています。十分夏休みを満喫できたでしょうか。そろそろ夏休みの残りを指折り数える頃になってきました。私は残りの人生で夏が何回あるか数えるようになってしまいましたが、あの頃の寂しさは良く覚えています。

 あの頃、一番の懸念と言えば夏休みの宿題の進捗状況でしょう。ランドセルの奥からドリルが一冊出てきたり、読書感想文は後書きが参考になると知ったのもこの頃です。絵日記や自由研究は親の協力無しには到底提出に至りませんでした。きっと今頃、遅くまで悪戦苦闘している親子も多いのではないでしょうか。

 自由研究のネタで、眼科で使えるネタも結構あるんですよ。「目とカメラの構造」とか「近視とは」とかどうでしょう。「眼鏡で見えるわけ」とかもいけそうです。最近の流行では「3D」なんかもいいかもしれません。

 近視についてなどは、日本眼科医会あたりのHPが参考になると思います。ネットは便利ですね。とは言えもう後数日も猶予がありません。今更こんなことを書いても遅かったかもしれません。

 五月蝿いほどの蝉の鳴き声も夏が終われば遠くなります。あれほど生い茂った夏草は枯れて風に揺られ、実を残して土に還ります。短い一年の中に生と死を見ることの出来る日本の四季の中で、やはり生命躍動する夏が一番輝いていて好きです。もう家路につくころには風が涼しくなってきました。暑かった今年の夏も終わりが見えてきたように感じます。

サルスベリの並木は炎天下で美しい。どこか南国風な花ですね。
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posted by kawagucci at 00:37| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする