2016年02月19日

虫取りは得意ですか

 春一番が吹いて、そのあと寒気が入ってと目まぐるしく陽気が変わる今日この頃です。毎年のことなんですが、春を待ち遠しく思う気持ちに振り回されてしまいます。

 この頃になると、受験が終わった学生さんが視力の相談に来院します。最近、その中で色覚検査を希望されることが増えた気がします。どこかで啓蒙活動でもしているのでしょうか。以前も取り上げたと思いますが、学校での色覚検査は10年前に廃止になっています。ちょうどその頃に入学した子供たちだと思います。

 誤解を恐れずに言うと、実は眼科医であっても色覚に関しては詳しくはありません。もちろん診断や分類などは理解しています。遺伝についても教科書に書いてあります。しかしその起源や意味まで踏み込んだ詳細については知らないのです。遺伝が原因で、治る「病気」ではないので興味が持たれにくいためでしょう。薬や治療方法が無いものは研究されにくいです。

 哺乳類の進化の過程で、夜行性になった際に一度色覚を失っていること。そして再び獲得した時に、熟した果実を見分けるために緑と赤が分離独立する形になったこと。そのために緑と赤の色覚の間で問題が起きやすいこと。そこまでは成書などで知っていました。しかしそれ以上のことは考えもしなかったというのが本音です。

 暇な時に(というか毎日のように)覗いているサイトの一つに、ナショナルジオグラフィックがあります。自然や動物オタクで知らない人はいない雑誌のオンラインサイトです。最近ここで東京大学の河村正二先生という方が取り上げられていました。

色覚はなぜ、どのように進化してきたのか
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/16/012700001/012700001/

河村正二研究室
http://www.jinrui.ib.k.u-tokyo.ac.jp/kawamura-home.html

 これがとても面白かった。私は歴史にも文化にも疎いですが、人類進化と書いてあるだけで読まずにはいられない進化オタクです。それだけで興味をそそられました。最初の方は目の解剖などの一般的なことについてなのでそれほどではありませんが、他の動物との比較、すなわち進化の話になると途端に面白くなります。

 色覚が発達した意味なんて、あった方が便利だからだと漠然と考えていました。しかし浅瀬の海など光線量が増減する環境だと有利だからだ、など考察が素晴らしい。

「ウナギとかサケみたいに、海と川を行ったり来たりするものもいますよね。彼らは、海にいるときはより短波長のセット、川に来たらより長波長のセットに切り替えたりするんですよ。網膜上に発現してくる視細胞が違ってくる、と」

 正直なところ、魚は色覚なんて大したことないだろうと思っていました。ルアーフィッシングを趣味にしていますが、光ってさえいればどんな色の鉛の塊にでも魚は食いついてくるからです。そんな魚たちが我々よりも多様な視物質を持っていて自在に操っていようとは。なめてました。こりゃ釣れないわけだ。

 話は6回にわたるのですが、眼科医にとって面白くなってくるのは霊長類、狭鼻類、そして人類に話が及ぶあたりからです。他の多くのサルは色覚の個体差が大きくないそうです。その方が生存に有利だからというのは想像に難くない。しかし我々人類だけはこのバリエーションが例外的に多いそうです。つまり「正常」といわれる色覚でない人たちが多い。

 その詳細については遺伝的な説明で、消化しきってない私が説明するよりサイトを読んでいただきたい。サルの研究の中で、正常とされる三色型よりも、そうでない個体の方が動くものに対して敏感であること。またカモフラージュなどを見抜きやすいことが観察されているそうです。

 章の最後の方にあった河村先生の考察が鋭く、とても感銘を受けたので転載したい。

「ひとつ考えられるのが、森林の外での狩猟です。3色型色覚はそもそも、霊長類の森林適応だとされているわけですから。ヒトは約200万年前、ホモ属になったあたりから森林を出てサバンナを主な生活の場にして、石器をつくって狩りをして生き延びてきた種であって、それはゴリラやチンパンジーとはまったく違う生態系であるわけですね。そうすると、狩猟において獲物はカムフラージュがかかっているし、狩猟をすれば自分も肉食獣に狩られるかもしれない。肉食獣はたいていカムフラージュがかかっているから、集団の中に2色型や明確な変異3色型の人がいることが、それぞれの生存に有利につながる可能性も考えられる。単に緩んだだけではなく、多様性のなかにメリットがあるんじゃないかという話です」

 私が「色覚異常」と告げた患者さんたちを前にして、なんにも言葉を継ぐことができませんでした。そんな居心地が悪い思いが一気に払拭したような気がします。我々が見ている色の世界は思っていたよりずっと多様で、それには意味があったんだと。

 河村先生は一般向けの本は出されていないようでした。ナショジオとインタビュワーの川端先生にお願いです。ぜひ本にしてください。

 私はいわゆる正常色覚ですが、自分で色覚検査をすると結構できません。もしかしたらギリギリなのかもしれません。服のセンスは悪いと言われていますし、黒と紺の靴下を履いて登校してしまうことなどしょっちゅうでした。

 こんな私ですが、子どもの頃に誰にも負けたことのない特技があります。「虫取り」です。生物独特の造形や、その陰影、左右対称性を見抜いて隠れている生物を見つけるのは得意でした。もう網を持って走り回ることはありませんが、夏休みを懐かしく思い出します。
 
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posted by kawagucci at 16:25| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする