2017年07月14日

水は巡る

 連日暑いです。温度も湿度も高いので、ぐったりしてしまいます。空調の効いた院内にこもりきりで、喉を痛めてしまいました。外も地獄、中も地獄です。

 一雨降ればとも思いますが、先日の九州の豪雨による災害を見ると、そう呑気なことも言えません。この度の災害に対し、心よりお見舞い申しあげます。

 数多の災害における現場を見るにつれ、水の力というものはかくも強いものかと思います。山も橋も家もみんな流してしまいます。その速さ、圧力、あらゆるところに浸透し溶解する力。

 この惑星が水の惑星である以上、水による災害は避けようがないのかもしれません。常温で液体の水があるからこそ、我々が存在するのも確かなんですが。

 よく知られているように、我々の体の大部分が水です。それは食べ物や飲み物から吸収され、体内の隅々に行き渡り、やがて排泄や蒸散されていきます。何かを溶かしたり、運んだり、冷やしたり温めたり、その融通性のある化学的性質ゆえに、あまねく利用されています。我々は水なしでは数日も生きられません。

 体内を巡る水分も一箇所に留まることはなく、血管から組織に、細胞から細胞に絶えず移動しています。今ある水は長い時間の一瞬だけ、ある平衡を保って自分の体の一部となります。この汗はいつか氷河の一部であったとか、この海の一滴はかつて自分の一部であったとか考えてしまいます。

 眼球も水分豊富な場所です。特に内側はたっぷり水分があります。小さな水風船のようなものです。黒目の部分は目の壁を作る一部ですが、透明な部分だけに、ちょっと厄介な問題があります。

 角膜の細胞は、隣接する白目(強膜)の細胞と何ら変わりはありません。かたや透明、かたや白いと色は違いますが、これは細胞の並び方に違いがあるためです。角膜の細胞は蜂の巣のように六角形に綺麗に整列することによって光を通し、透明であるのです。逆に、この整列が乱れると光が透過しなくなり、濁ってしまうのです。

 水の豊富な内部を抱え、角膜の細胞は放っておけば水が染み込んできて膨れてしまいます。すなわち形が崩れて濁ってしまう。そうならないように内側一層の細胞に水を汲み出すポンプを備えています。入ってくるだけ掻き出しているんです。これを角膜内皮細胞と言います。

 これはとても貴重な細胞です。なぜなら損なわれると、二度と増えないためです。生きていれば様々な障害によって細胞は減っていきます。多くの細胞は増える力を持った母親のような細胞によって再生していきます。しかしこの内皮細胞は増えません。足らなくなった部分は己の大きさを大きくして、パズルを合わせるように埋めていきます。

 ある一定以上、角膜内皮細胞が減ると、水の汲み出し機能が追いつかなくなって角膜が濁ります。そうなると現状では角膜移植をするしか治療方法はありません。将来的にはiPS細胞で作れるかもしれません。

 角膜内皮細胞が減る原因は様々ですが、外傷や炎症、手術などの直接的なダメージ、そしてコンタクトレンズなどです。特にコンタクトは自覚がないまま、ゆっくりと細胞を減らしてゆきます。

 角膜は透明であるがゆえに血管を持ちません。血管を持たないということは酸素や栄養を受け取りにくい。そのため、涙から多くの酸素や栄養分を供給されています。コンタクトの長期装用やドライアイ、アレルギー下の装用など、不適切な使用によって十分な酸素が供給されないと、内皮細胞は徐々に数を減らしてゆきます。

 学生の頃から30年くらいコンタクトをしていて、度々トラブルがあったなどという方は要注意です。歳をとって、白内障などの手術をする際に角膜内皮細胞が足りないことを指摘されるかもしれません。手術操作は内皮細胞数を減らすことは明白なので、ある一定以上の数を満たさないと手術はできません。

 手術したことによってかえって濁ってしまうという悲劇は、以前は度々ありました。今はほとんど角膜内皮細胞の数を数えてから手術をします。かなり少なくても安全に手術する方法も無いことはありません。それでもやはり、内皮細胞の数を減らすようなことは避けたほうがいいでしょう。

 コンタクトのトラブルは喉元過ぎてしまうと忘れてしまいますが、そのダメージは確実に蓄積していきます。多くはその背景に問題があります。PC作業などの仕事で乾きやすい。禁止が強過ぎてメガネでは見にくい。職業上、メガネでは難しい。夜勤があって長時間の装用になる。そんな声を外来で聞くたびに、将来が心配になります。

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 クリニックのマンションの管理人さんが苦労してお世話してた花が咲きました。誰かが花芽を折ってしまったようですが、水をあげて立派に咲きました。もうすぐ梅雨明けですね。
posted by kawagucci at 15:13| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする